ぶるーと

行きましたとも。ぶるーと。
長野県と群馬県の県境の山中に、ポツネンとある一見ログハウス風の佇まい。
ただでさえ解りにくい場所なのに、頼みの綱である看板すら、朽ち果てて雑草と残雪に埋もれていた。

何度も来ている私とて、何度も迷ってしまう。一見さんは間違っても入ってこない仕組みになっている。
13時を回ったころか。到着。
恐る恐る店内を覗くと、客はおろか店主もいない。
しかしスープのズンドウだけは、グツグツグツグツ煮えたぎっていた。

電気はついている。やっているに違いない。
「こんにちわー。こんにちわーーー」
と叫ぶと、いつものように憮然とした面持ちで店主が店の奥からノシノシやってきた。

ぶっきらぼうで、あまりにも憮然とした態度を見て、「やったー。これぞぶるーとだ!」と、気分が高揚してくる。

「やっていますか?」と私が聞く。
「おめえがそこに座ってるんだから、やっているんだろう」と店主が言う。なんて店だ 笑

10席強のカウンターの真ん中に私と友人が陣取る。貸切状態。
座るなり
ライブドアの問題どうおもうよ」と、投げかけてきた。
これは店主なりの挨拶で、私がIT業界に勤めていることを覚えているよ、というメッセージに聞こえた。

ライブドアにからむ話をしていると
「この国は終わってる」みたいなことを言い出す。そこからマスコミ批判、国批判のオンパレード。

やっとの思いで注文をする。
ぶるーとはラーメン屋である。しかし、車で30分かけて、ましてや埼玉から長野に行くたびに顔を出すラーメン屋なので、そんじょそこらのラーメン屋ではないことを強調したい。

でかい。からい。うまい。

これが一番簡単な説明。ついでにいうなら「おもしろい」だ。
非常に個性の強い店主が、客相手にくだを巻きながら、極上の食事を、極大の量で出す店。

まず私がはじめてぶるーとに行ったときのエピソードを。
私の通っていた学校では口コミですっかり有名な店だった。
いよいよ私も行きたくなり、友人たちと探し回る。

なにせ店主の強烈な個性と、料理の量の話ばかり耳にしていた。

店にはいると、つい今しがたまで居たであろう客の食事の残りを目にする。
15人前の飲み物くらいだったら乗りそうなおぼんを思い浮かべてほしい。そこにカレーライスが大量にのこされている。スプーンは二つだ。
つまり二人がかりで食べたものの、食べきれずに残していったのであろう。

料理全てに大・中・小がある。
そのカレーはどうみても大だったのであろう。

あまりの大きさに、友人たちと驚きを隠せなかった。
しかし。なんとそのカレーが中だったことをすぐに知った。
チャレンジ企画物の爆裂料理は見たことがあるのだが、その店は全てがすべて、その調子なのである。

量だけではない。この店は激辛料理も有名なのだ。
当時私は、あちらこちらの店で激辛チャレンジをしていて、少し自信はあった。
麻婆丼を激辛でオーダーしてみた。
すると、ビンの中から見るからに辛そうな真っ赤なタレをしこたまどんぶりに入れている。
食す。

辛い!しかしそれ以上に旨い!
とびきり辛いのに、とびきり旨い。これはなかなか無い。
マイルドでコクが強く、低刺激なのにとても辛い。不思議な不思議な感覚だった。

それまで食べてきた激辛料理たちは、辛くすればイイというようなシロモノで、とても旨いものではなかった。それだけに、ここの麻婆丼は、あまりに私の中で感激を与えた。

旨い旨いいいながらガツガツ食べていると、店主が
「お前、それ辛くないのか」
と、少し驚きを隠したような顔でいってきた。
「辛いっスけど、すんごいウマイっす」
と言うと、プライドに傷がついたのか
「ならまだいけるな」
と、おもむろに先ほどのビンから、先ほどの魔法の赤いタレをかけはじめる。

先ほどよりもはるかに辛い!しかしうまいうまいうまい!
なんだこのタレは。

ばっくばく食べていると、店主が横目でチラッチラッと見る。
明らかにインパクトを与えたらしい。
そこでまたタレをかけられ、また旨いと言う。
そんな戦いの結果
「おまえ、化け物か」
というほめ言葉をいただく。

店主曰く、徹底的に研究されたそのタレは、日本一辛いタレとのこと。
辛さは抜群だったが、やはりその旨さには心底ほれ込んだ。

そのタレに、普段は憮然とした態度で客を扱う裏で、プロの仕事をしている男を見たのだ。

そんなわけで、長く書きすぎたので続きはまた。