ツール・ド・ちば2007 総括(後編)(3)

これまで自転車で走ってきた数多の坂の中でも、割合勾配のキツイ坂が、割合長く続く。


この「割合」というのがくせ者だった。
少しずつ少しずつ気持ちが折れてくる。


都内を走っていても坂はかなり多い。しかし連続することはあまりない。
通常、坂を越えるとそこには上り坂に比例したような距離の下り坂が待っている。


ここは違う。

ぜえぜえはあはあ言いながら緩やかなカーブを伴う坂を上る。
あのカーブの先は下りかな?と思っていると気持ちが持たない。


どうせあのカーブの先もまだ登りだろう。そう考えるぐらいが丁度良い。
また坂を登り切って下り坂が来ても、すぐ目前には次なる上り坂が。


炎天下。上り坂を必死に漕いでいても、無情に向かい風が吹き付ける。



なんでこんなにオレをいじめるんだ!なんて、行き場のない憤り。


丁度お天道様も真上に来ている。日陰があまりにも少ない。


頭がくらくら来る。坂は続く。息は切れる。日陰はない。
挙げ句の果てに飲み物もそこを尽きた。喉はからから。


まだ走り始めて30キロも走っていないうちに、私の意識はもうろうとしていた。


自動販売機がぽつり、ぽつりと数百メートルおきぐらいにある。
しかしそこで飲み物を買っている人はいない。


流れというものを理解していないので、こんなところで立ち止まって飲み物を買ってはいけないんだろう。
そんな誤解があった。



そのピークが訪れたとき、初めてのエイドステーションに到着した。



飲み物を配布している。水だ!お茶だ!スポーツドリンクだ!
バナナもある。そして塩。


まずはグビグビお茶を飲み干す。
既にエイドに到着していたイトコのヒロと、その友達タカピーは涼しい顔で私を待っていた。
バナナを食べながら。


ちっともお腹は減っていないが、バナナは食っておいたほうが良いとの忠言。
それを聞き入れてバナナをほおばる。


塩なんか何に使うんだ?
タカピーは「腕にぬっとけ」という。


走行中には水分とともに塩分も排出される。それは理解できる。
その塩分を摂取した方が良いのもなんとなく分かるが、喉が渇く恐れを感じていた。


躊躇したが言われたとおり左腕にザッと塩を塗る。
そいつを舐める。


んめえ!!!


体に見る見る塩分が浸透していく感じ。こんな経験は今までなかった。
気のせいか疲労感が和らぐ。


塩分は本当に体から抜けていっており、体はこんなにも塩分を欲していたことを知る。



その後都度都度塩分を摂取することにより、ずいぶん疲労が蓄積しなくなった。


またヒロとタカピーに助けられた。



15分ほどの休憩をしたあと、出発。
坂は終わったわけではない。


エイドステーションを抜けた直後に大きな坂。
2人とはグイグイ差が付いていく。もはや定位置。


周りの目など気にしていられない。ゆっくり無理なく進めばいい。そう言い聞かす。


いくつの坂を上ったのだろう。そしてその課程で、エイドステーションから持ってきた飲み物はすぐに底を尽きていた。



その頃には道程でタイヤ交換をしている人や、小休憩をする人。連れの人を待っているのか、後方を眺めて待ちぼうけする人。
そしてそして、自動販売機で飲み物を買う人が現れ始める。



だよね。そらそうだよね。いいよね、自動販売機で飲み物を買ったって。
その時間を惜しむほどスピード争いが出来ているわけでは、到底なんだし。


よし!買おう!



そんな少しずつの自分ルール改正をしていくと、心がほどけていく。

体の熱が高まりすぎてきたと感じたら、たまに見つける日陰で小休憩。飲み物をグビグビいただく。



そんなライドを続けていると、急勾配の下り坂が突如現れる。しかも長い長い!


このまま海岸まで届くのではないかという錯覚に陥るほど、長い長い下り坂。
向かい風に突っ込むように下り坂を駆け下りる。


この時ばかりは向かい風も扇風機の風みたいなもので、体を冷ましてくれる。
気分は最高に良い。本当に、最高に気持ちいい。


たくさん上った分だけ、一気に下れる。


急カーブが続くのでブレーキをきかせながらではあるが、ビュンビュン下って行けた。